気づいたら実家の洗面台の前にいた。
しかし実家に帰った記憶がない。自分は昨日まで確かに自宅にいたはずだ。今自分が実家にいるなんてありえない。
これは夢だ。
そう確信できた。自分が今夢を見ていると認識できる、これが明晰夢というものか。初めての体験だ。
とりあえずリビングに出てみる。幸か不幸か誰もいない。
さて、どうしよう。まず空を飛ぼうと考えた。高いところから思いっきり飛び出してみよう。夢の中だから願えば空を飛べるかもしれない。仮に飛べなくても現実ではないのだから問題ない。
全裸で外に飛び出してみようかとも考えた。何したって自由だ。夢なんだから。
でもできなかった。 もしかしたらこれは夢じゃないかもしれない。 そう思ってしまったからだ。仮に夢じゃなかった場合、全裸で外に飛び出すのはやばい。夢の中でもやばい。
ここでふと昔飼っていた犬のことを思い出した。ロングコートのチワワだった。仮名をポチとしよう。ポチは自分が実家を出た後に虹の橋を渡ったが、今でも写真を見て思い出に浸っている。
明晰夢ならもう一度会えるかもしれない。そう思った。ポチはいつも寝室にいた。ふかふかの毛布が大好きだった。
寝室のドアに目を向けた。するとポチがトコトコ歩いて出てきた!超嬉しかった。また会えるとは思わなかった。思いっきり抱きしめて、撫でまくった。ちょっと激しくワシャワシャし過ぎたかもしれない。少し嫌そうにしていた。
ここで目が覚めた。
自宅のベッドの上だった。やはりあれは夢だったようだ。感動でしばらく呆然としていた。ポチとまた触れ合えることができて本当に良かった。
明晰夢の原因を考えてみたが特にきっかけのようなものは思いつかなかった。意図的に明晰夢を見ることは難しそうだ。
明晰夢を見た人だけにしかわからない感覚かもしれないが、明晰夢を見たあとしばらくの間、今生きているこの現実が本当に現実なのか時々確かめながら過ごしていた。 冗談抜きで夢の中かどうか確かめるために頬をつねったりもした。
人生2度目の明晰夢はまだ見ていない。次の明晰夢ではもう少し長い時間ポチと触れ合いたいな。